2015年6月13日土曜日

未 だ 王 化 に 染 は ず

撃則隠草  撃てば則ち草に隠(ふ)せ
追則入山  追へば則ち山に入る
故     故に
往古以来  往古より以来
未染王化  未だ王化に染(したが)はず

未だ王化に染はず (小学館文庫)
      冒頭の文句は日本書紀において、景行天皇が日本武尊に蝦夷征伐を命ずる下りの一部である。漢詩っぽく並べてみたのは気分で。読むときは若かりしときの根津甚八の声をイメージして欲しい。
 この作品が文庫化されることをサンヤツで見て、久々にぶったまげた。おいおいおいマジか、という声がつい口からこぼれでた。しかしまあ小学館文庫と言えば、始まったばかりの頃に『浅草弾左衛門 』を文庫にするという無茶をやらかした前歴があるので、これを出してもおかしくないといえばそうとも言えなくもないようにも思えた。

 解説を見ると、この本の初版は一九八六年十月に出ているという。昭和天皇在位六十年で、そろそろ周囲で「Xデー」についてささやかれだしたころだ。
 版元はまだベネッセになってなかった福武書店。もちろん増刷なんか、かかんなかった。ごくごく一部で話題になっただけで、さっぱり書評に載らなかったのだ。しかも作者は経歴不詳で、どこの馬の骨やらわからない、とくる。
 今回文庫化されるにあたり、(というか、それ以前に『カノン』で文藝賞を取った際に)、その正体がやっと「外岡秀俊」だと明かされた。
3・11 複合被災 (岩波新書)
震災と原発 国家の過ち 
文学で読み解く「3・11」 (朝日新書)

 内容の方は天皇陵を暴こうとする考古学ミステリーで、かなりギリギリのラインってところ。身元を隠してたわけだ。

 しかし、こういうのをちゃんと掘り出して文庫にするってのは、いいことだと思う。昔買った本はどっかにいっちゃったので、また買い直すことができた。
 古本屋としては、あまり喜ばしくないことかもしれんけどね。


 

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