2014年11月5日水曜日

【しかしサムライがプロレタリアになることはなかったのだった編】もしも西荻窪の古本屋がピケティの『21世紀の資本』(PIKETTY,T.-Capital in the Twenty-First Century)を読んだら

マルクス・コレクション 全7冊セット
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日本は、土地所有が純粋に封建的で、小農民層がよく発達している。これを見ると、ブルジョア的偏見によって書かれている我々の歴史書のどれよりも、ヨーロッパ中世についてはるかに忠実なイメージを提供してくれる。中世をあしざまに言って、その犠牲の上で「リベラル」であろうとするのは、あまりにもいい加減である。
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 以上は『資本論』第一巻七編二四章二節の注一九二である。(今村仁司・三島憲一・鈴木直訳)
 要するに、日本の方がずっと中世らしいし、日本の方がずっと封建的だよなあ、てこと。マルクスはそれをブルジョアのせいにしてるけど、キリスト教の影響の方がでかいような気がする。とにかく『資本論』てのは、マルクスのブルジョアへの怨念が満ち満ちてるんだよね。
 資本論の一巻目は経済史の本としても読めて面白い。イギリスにおける労働者階級(プロレタリアってやつね)の起原については、十五世紀最後の三分の一と十六世紀最初の数十年に起こった、とする。何が起こったかというと、封建家臣団が解体されて、法の埒外におかれた大量のプロレタリアが、労働市場に投げ出されたのだ。ちなみに十八世紀くらいまでイギリスったって人口の八割は農民だった。そして、生産手段も生活の場も失われた「労働者」は、ほとんど奴隷と紙一重だった、とロックは言う。

 封建領主たちの狙いは、今で言うリストラ。家臣に領地を与えて農民たちをたくさん抱え込むより、同じ広さならそこで羊を飼った方が人間減らせて効率的じゃん?てわけ。毛織物のマニファクチュアが流行って、フランドルとの取引でもって毛織物の価格が鰻登りだったし。トマス・モアが『ユートピア』で書いた「羊が人間を喰う」状況、世界史の時間で訳もわからず憶えさせられた「囲い込みenclosure」てやつだね。
 で、イギリスでは農奴てのは十四世紀くらいに消滅してたんで、追ん出されたのは一応自営農民なんだ。なんでそんな無茶がまかり通ったかというと、イギリスのほとんどの土地は王家に属していて、自由土地保有権freeholdと謄本保有権copyholdてのは、絶対不可侵のものではなかったのだ。この制度は形式的に一九二五年まで続いちゃったりする。でも生意気覚悟で言っちゃうと、マルクスはここら辺のこと無視してるよね。たぶん、ブルジョアへ矛先を向けるために、焦点がぼけるのを嫌がったからだと思うけど。

 さて、マルクスが日本についてどのくらい知ってたかはわかんないけど、マルクスはおそらく同時代の日本の状況を耳にして、封建的な状況がよく保存されてるね!と考えたのだろう。本当の日本の中世の状況を見て、サムライについて実態を知ったならどんな感想を持っただろうか。
 サムライの起原、というか、サムライってのは全体的にかなりゆるい輪郭で言ってるんで、ここはちゃんと「武家」と呼んでおこう。
 武家の誕生については今も諸説あるけど、だいたいアレだよね。
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土地に囲いをして「これは俺のものだ」ということを思いつき、それを信じるほど単純な人々を見つけた最初のもの……
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 て感じじゃないのかな。これはルソーの『人間不平等起原論』第二部の有名な文句で、ルソーはこれが国家の起原だとしてる。
 武家ってのは、まあ最初は貴族から土地の監視をまかされてたんだけど、貴族ってのはそんな勤勉な連中ばかりじゃなかったんで、ほったらかしになった土地なんかを武家が「俺のもんじゃー」と言い出したわけだ。
 そんな人のもんを奪ったら泥棒じゃん?て貴族たちは怒ったんだけど、武家には武家の言い分があって、「何年もほったらかしにしたもんは放棄したのと同じ。捨てたもんを拾って何が悪い」てわけ。これは武家の慣習法みたいな「悔返(くいかえし)」というやつで、後に御成敗式目にばっちり載っかって、しかも現行の民法にもその精神が反映されてたりする。何年か土地を占有して文句を言われなかったら、その人のものになっちゃうってやつね。
 かくして、「一所懸命」な武家が誕生した。
 で、おそらく同時に、大勢の農民が旧来の土地から追ん出された。
 しかし、十六世紀のイギリスとは違ってマニファクチュアなんざ影も形もない時代、彼らが身ひとつで行える「生産」行為といえば暴力であり、武装して盗賊になるものもあれば、武家に取り入ってその家や土地を守る兵隊となるやつもいた。
 と、ここで次回につづく。



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以下、続いて書かれたエントリーのリンク集。
読み進むにつれて触発され、「財産」が「世襲」される時に経済的な事象を越えた振る舞いをする、ということについて書こうと思いました。が、あまりに大きなテーマだったので途中で切り上げました。また勉強しなおして、取り組みたいと思います。

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