2014年6月20日金曜日

とりたてて感想があるわけでもないけど『グランド・ブダペスト・ホテル』はとても良い映画だ


『グランド・ブダペスト・ホテル』を観てきました。
 こういう、美しくて、オシャレで、グロテスクなコメディは好きですね。大好物といっていい。
    ただ素直に映画を観ていても楽しめますが、ちょっと時代背景の知識があると、よりいっそう味わいが増します。
(以下ネタバレ



 舞台はズブロフカ共和国という酔っ払いそうな名前の国。まあ、確実にオーストリア=ハンガリー二重帝国がモデル。ホテルの名前からして、どっちかというとハンガリーかな。帝国は一次大戦のあと崩壊し、オーストリアはやがてナチの占領下に、ハンガリーは共和国が王国になって、王国の執政が独裁してナチとなかよしになってユダヤ人を追い出します。映画にもナチもどきが出てきます。
 で、これ、シュテファン・ツヴァイクにインスパイアされて作った映画だそうで、ツヴァイクって今は「忘れられた作家」になってるんですって?映画評論されてる方々がそうおっしゃってるんですが、古本なんぞ商ってるとツヴァイクなんか腐るほど目にするわけで、一体いつどこで忘れられてたのか、あんたが忘れてただけじゃないのか、と言いたくなったりします。
昨日の世界〈1〉 (みすずライブラリー) 昨日の世界〈2〉 (みすずライブラリー)

 ツヴァイクてのは、オーストリア=ハンガリー帝国の首都ウィーンを根城にしたユダヤ系作家で、理想主義的平和主義者でありました。彼の作品は世界各国でベストセラーとなり、ムソリーニも愛読していたという話があります。まあ、ムソリーニは「実は◎◎の愛読者」てエピソードが多い人ですけど。
 あと、監督はハンナ・アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』やらネミロフスキーの『フランス組曲』やらの名前を口にしてるそうで、こういうペダントリーって嫌いじゃないです。なんつーか、自分と同類のにほいを感じる。くんくん。
 だからといって、よくある平和万歳ユダヤ人かわいそうな主張なんかは、まつげについたほこりほどにも目に入らないわけで、ただただ上質なコメディに仕上がっています。エンターテイメントじゃなくて、あくまでコメディに。

イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告
フランス組曲

 あと、映画のキーになる絵画『少年とリンゴ』とすり替えてかけられた絵って、エゴン・シーレもどきだよね。敵役にぶち破られてますが。

【エゴン・シーレの作品32点で神経衰弱!?】メモゲーム エゴン・シーレ

 とにかく楽しい映画でした。ピーター・グリーナウェイあたりがお好きな人なんかは、観に行って損はないかと、

 あと、また例によって娘と行ったわけですが、娘の言うことにゃ
「あー、彼氏欲しいなー」
「あのな、じゃあ、まずこういう映画を父親とじゃなくて、男の子といっしょに観なきゃ」
「あ、そうか!!」
 親に言われる前に気づけ、娘よ。

0 件のコメント:

コメントを投稿