2013年9月27日金曜日

「死刑!」じゃなければ「アフリカ象が好き!」と言えばいいじゃない(一応昨日の続き)

 昨日の続きだけど、内容はあんまり続いてないので、タイトル変更。


ドイツ古典哲学の本質 (岩波文庫 赤 418-5)

「フランス革命では王の首が切り落とされたが、カントは神の首を切り落とした」とハイネは『ドイツ古典哲学の本質』で述べている。ほんとはもっとぐだぐだ書いてるけど、だいたいこんな主旨。
 しかしカントは敬虔なクリスチャンであり、哲学と宗教の役割をはっきりと弁別し、『実践理性批判』ではやたらと神について擁護している。ハイネはこの『実践理性批判』を「召使いの爺さんを慰めるために書いたのだろう」なんて貶めている。でもまあ、そう言いたくなる気持ちも判らないでもない。「私は無神論者じゃありませんよ〜」という言い訳がましい記述に満ちているからだ。
実践理性批判 (岩波文庫)
 そうやって必死で言い訳しなきゃならんほど、『純粋理性批判』てのは凄まじい本だったわけだけど、カントだって生活があるわけだから、そうそうとんがってばかりもいられない。
 カントは身長一五七㎝、生来の虚弱体質で、書斎の温度を常に一定に保ち、決して汗をかかぬようつとめていた。町の人々が時計代わりにしたほど、規則正しい散歩を日課としたことは有名だ。まかりまちがって著書が検閲に引っかかり、大学の職を失うことになったら、まず生きてはいられない。当時、書籍の検閲は「常識」だったのだ。
 『実践理性批判』は無神論への言い訳になったが、刊行した翌年にフランス革命が起こった。前回とりあげた『人倫の形而上学』は1797年、フランス革命戦争の真っ最中に書かれている。ちなみにハイネはこの年に生まれた。


カント全集〈11〉人倫の形而上学

 この本はまあ、言ってみれば、当時「人倫」として認められてたものを全部、「形而上学」で後づけて肯定しちゃおう 、みたいな本だ。反動ってやつ?
 中でもベッカリーア死刑廃止論を切り捨てた部分は有名だ。死刑賛成論者たちは必ず「カントだって賛成してたぞ!」とこの部分を持ち出してくる。

…………
 ……これまで述べてきたことに反対してベッカリーア侯は、もったいぶった人道主義に与する共感(compassibilitas)から、死刑は全て適法ではないという主張をした。…………この主張は全て詭弁であり法を曲解するものである。 
…………

 確かにカントは死刑に反対していない。その存在を認めている。だが、「死刑」とはどのような刑罰であるか、ということについて考察を怠らない。

…………
 犯罪者である私に対して刑罰の法律を私が作成するとすれば、私のなかでそれを行うのは純粋に法的立法的な理性(homo noumennon可想的人間)であり、その理性が、犯罪をおかすことができるものとしての、つまり別の人格(homo phaenomenon現象的人間)としての私を、市民的統合体に属する他のすべての人とともにこの刑罰の法律に服従させるのである。言葉を換えれば、人民(これに属する各人)ではなく、法廷(公的正義)が、したがって犯罪者とは別の人が、死刑を課すのであり、社会契約には、自分を処罰させる約束は、したがって自分自身と自分の生命を処分する約束は、全く含まれていない。
…………

 カントはタリオtalio(目には目をってやつ)を肯定してるけど、さすがに人を殺したやつは殺せばいいじゃん、と一直線には語っていない。いないけど、途中で考察をやめている。だって、このまんま死刑の有りかたについて「形而上学的に」考えてたら、君主の死刑について肯定せにゃなんなくなるもん。
 王に対して常に敬意を払っていたというカントにそんなことが書けるわけもないし、また実際この本にはやたらくどい自注をつけてて、君主の殺害を全否定し、革命すら非難している。
 でもさ、人倫を「形而上学的に」考えるってのはそういうことだし、「形而上学的に」肯定すれば肯定するほどなんだかおかしなことになってくる。なので途中でけつをまくっちゃうという、この本はその繰り返しなのだ。

 ちょっとここで自分なりのまとめを書いとくと、死刑というものは、およそその社会が未熟で、「暴君」が誕生してしまう余地がある場合に必要とされる。暴君を殺すためではない。暴君がそれを利用するためだ。暴君はおよそ、未熟な市民の未成熟な欲望をまとって誕生するからだ。カントが生きていた時代のプロシアは未熟で、ベッカリーアの唱えるような理想など、かえって毒になるような状況だったのだ。(ロベスピエールは若い頃死刑廃止論者だった)
 死刑を廃止しろとは言わないけど、それはつねに国家との関係として「問い続ける」ことが必要とされるんじゃないかな、てこと、じゃないかなかな。どうだろ。

 予想以上に長くなったので、続きはまた次回に。

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