2015年6月15日月曜日

『令嬢ジェシカの反逆』をポッタリアンたちは読もうとしないのだろうか

 ヒトラーが最初からむき出しにしていた本性から、人々が眼を背けられなくなった頃、スペインでは内戦が始まった。ヘミングウェイやマルローやオーウェルが義勇兵として参加したその戦いに、イギリスから一人の貴族のお嬢様が加わる。
Hons and Rebels
(令嬢ジェシカの反逆)
    その名はジェシカ・ミットフォード。
 元々マルクスに傾倒していた彼女は、とある共産主義者と恋に落ち、駆け落ちしたのだ。
 お相手の名はエズモント・ロミリィ。彼はジェシカのまた従兄弟であり、あのウィンストン・チャーチルの甥でもあった──


 とまあ、そんな感じの『令嬢ジェシカの反逆』なんだが、ちょっと気が向いて図書館で借りようとしたら、どっっっっこにも在庫がなくて、国会図書館のは館外持ち出し禁止で、電子化されてるけど公的図書館を通さないと見られないしで、おまけにとんでもなく解像度が悪くて、十分も読んでると頭がくらくらしてくるのだ。なんだこれ。一九六六年に朝日新聞社で出てるのに、そんなに売れなかったのか。英語版(原書)は今でも安いぞ。

 ミットフォード姉妹てのは、日本ではそれほど知る人もいないけど、イギリスでは超がつく有名人だ。
 長女のナンシー・ミットフォードは、『ポンパドゥール侯爵夫人』を書いたベストセラー作家である。
 次女パメラは原子物理学者デレク・ジャクソンと結婚。そして離婚。
 三女ダイアナは「黒ビール王」のギネス家に嫁ぐも、夫を捨てててイギリス・ファシストのオズワルド・モズレーの元へ走った。ナチスと親交を結び、モズレーと再婚したときはヒトラーが立会人になった。
 四女ユニティはヒトラーを信奉し、その側にあってヒトラーの愛人と噂された。イギリスがドイツに宣戦布告したとき自殺未遂。
 五女ジェシカが冒頭の『令嬢ジェシカの反逆』の著者。元共産主義者で、市民活動家。渡米後はジャーナリストとして活躍し、何冊かのベストセラーを書いた。
 六女デボラはデボンシャー公爵夫人となり、二〇一四年まで生きていた。
 影の薄い長男トーマスは三番目に生まれて、なんか人妻と浮気してばっかだったとかで、二次大戦ではビルマ戦線に志願して日本軍に殺された。

アルジャーノン・B・ミットフォード、
英国外交官の見た幕末維新
 (講談社学術文庫)
  このミットフォード家(正確にはフリーマン=ミットフォード家)はジェントリーの家柄で、リーズデイル男爵の系譜に属する。(爵名と家名が違うのはイギリスではよくあること)
  姉妹の祖父であるアルジャーノン・ミットフォードは、アーネスト・サトウといっしょに幕末の日本に来てたりもする。
 なんというか、姉妹でそれぞれ政治信条の違うところへ嫁入りするとか、『宋家の三姉妹』みたいなことって、イギリスでもあったんだなあと思う人も多いだろう。

 で、この『令嬢ジェシカの反逆 』(Hons and Rebels)なんだけど、実は超々々々々ベストセラーに影響を与えているのだ。
 それは………

ハリー・ポッターと賢者の石 (1)
 
 ハリー・ポッター!!!
 ジェシカ・ミットフォードのWikipedia(英語版)から、J.K.ローリングのインタビューを引用してみよう。
…………
My most influential writer, without a doubt, is Jessica Mitford. When my grand-aunt gave me Hons and Rebels when I was 14, she instantly became my heroine.
(もっとも影響を受けた作家は、掛け値なしに、ジェシカ・ミットフォードです。十四歳のとき大叔母に『令嬢ジェシカの反逆』をもらったとき、彼女はすぐさま私のあこがれとなったのです)
I love the way she never outgrew some of her adolescent traits, remaining true to her politics – she was a self-taught socialist – throughout her life. I think I've read everything she wrote. I even called my daughter Jessica Rowling Arantes after her.
(思春期からぬけきれないところが好きで、一生涯自分の主義──彼女は自己流社会主義者でしたが──を通したところとかね。彼女の著作は全部読んだものです。娘にもジェシカ(・ローリング・アランテス)って名前をつけちゃいました)
…………
 いやー、なんかびっくり。
 でも『令嬢ジェシカ』を読んでみようかという気になっても、『ハリー・ポッター』を読もうという気にはならんけどね。
 てかこれ、なんで再版されないんだ。日本のポッタリアンてのはブルーレイディスク見てりゃ満足なのか。

 とはいえ、ジェシカに関する本がまったくないわけではなく、講談社から『ミットフォード家の娘たち』てのが出てるので、そちらでも詳しく知ることができる。
 まあそれでもやっぱり、なんで『令嬢ジェシカ』がほったらかしなのかと思う。どっかでたっぷり注をつけた新訳でも出してくれんもんか。

ミットフォード家の娘たち―英国貴族美しき六姉妹の物語

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