2015年5月16日土曜日

かつて子供に聞かせる話には血の臭いが必要だった

 娘が小学一年生のとき、何に触発されたのか「キャンプに行きたい!」と言い出した。
「きゃ、きゃ、キャンプ〜!?」と、私は驚いたときの文楽人形のような顔になった。無理もない。それまでの人生において、キャンプなどというネイチャーでアウトドアーなことなど、一度もしたことがなかったのだ。(中学の時の野外学習は除く)
 しかし、可愛い娘の願いである。父親たるもの、きいてやらねばならぬ。父親は永遠に悲壮だと萩原朔太郎が言ったのは、こういうことだったか。(はいそこ、つっこまない!)

 キャンプ場をネットで調べ、アウトドア雑誌を立ち読みし、安いテントをドンキホーテで買って、夏休みの某日に出発の運びと相成った。
 キャンプ場に着き、初めて三輪車にさわるチンパンジーのように簡易テントと苦闘し、なんとか形がついて缶ビールをあけた頃には日が暮れていた。
 するとそこに、まったく予想しなかった事態が!!
「帰る」
 と娘が言い出したのだ。こらこら言い出しっぺはおまえだろ、などという理屈は通じない。ただひたすら「帰る〜」「もう帰りたい」と涙を流す。わけをきいてみると、「夜が暗くて恐い」という。
 おいおい、いくら山の中とはいえここはキャンプ場で、周りには大勢人もいるし、月明かりもあって明るいくらいだぞ。と言い聞かせても通じない。
 そう、田舎で生まれて夏の夜には蛙の合唱を聞いていた私と違い、東京生まれで東京育ちの娘にとって、夜の「闇」は初体験だったのだ。
 しかし、ここまできて「はいはい」と帰るわけにはいかない。もうキャンプ場の使用料も支払っているのだ。(←重要)
 それでどうしたかというと、テントの中で「お話」をした。どういう話かというと、童話や昔話を思いっきりめちゃくちゃに、限りなく暴力的に、モラルもへったくれもない形にして、即興できかせたのだ。ほとんど憶えていないが、桃太郎が桃を切ったら半分になって生まれて半分のままおどり出して脳みそがこぼれたり、浦島太郎が亀に溺死させらて乙姫が怒ったら亀がガメラに変身して乙姫喰っちゃったり、まあそんなような感じ。とにかく勢いだけで、ストーリー性なんぞかけらもない。
 娘はバカ話にけたけた笑い、笑ううちに恐怖が薄れてきたのか、やがてぐっすり寝てしまった。ちなみに、その時寝袋などと言う贅沢なものはなく、家から持ってきた古めの布団と毛布をテントの中に詰め込んでいた。
 この経験から考えるに、昔の童話が恐ろしく残酷なのは、子供から夜の闇への恐怖を取り除くためだったのだろう。「ほんとうは怖い」グリム童話が以前ベストセラーになっていたが、その残酷さを生んだのはドイツの黒い森(シュヴァルツヴァルト)だったのではないか。あの闇の深さは、月の明るい日本の田舎の比ではあるまい。

 さて、先般カンヌで”Tale of Tales"という映画がパルムドールに輝き、話題になっている。

  予告編を見る限りでは、美しく、血なまぐさく、グロテスクで、非常に期待させられる。
 元になったのはジャンバティスタ・バジーレの『ペンタメローネ「五日物語」』というものだとか。
 うーん、これは観たい!
ペンタメローネ (上) 五日物語 (ちくま文庫)
ペンタメローネ (下) 五日物語 (ちくま文庫)
    しかし、この映画に娘といっしょに行くことはないだろう。もう娘も充分に大人になったはずだからだ。


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