2015年4月6日月曜日

「哲学者は己の論ずるところを実践せず」?もしくは哲学者とお金の話

「太ったブタよりやせたソクラテスたれ」と、大河内一男は実際には言わなかったそうだが、だいたい哲学者といえば食うや食わずでも偉そうにしてる輩、というイメージがあったりする。そういうのってディオゲネスが元になってんじゃないかと思うけど、実際の哲学者ってのはそうそう貧乏ばっかりでもない。
 以前書いたエントリータレスがオリーブの搾油器で儲けた話をしたけど、これは史上初の信用取引だとかなんとか言われてたりする。
 古代ローマにもセネカってのがいて、このおっさんは当時超のつく大金持ちだった。

Seneca, the fat-cat philosopherhttp://www.theguardian.com/books/2015/mar/27/seneca-fat-cat-philosopher-emily-wilson-a-life
 とガーディアンの記事に詳しい。fat-catてのは大金持ち、それも政治がらみなニュアンスがある。セネカは暴君として名高いネロのアドバイザーで、セネカが側にくっついてるうちはネロも慈悲深い賢帝であったという。
 隠居してからネロ暗殺に加担した疑いをかけられ、自ら命を絶つハメになった。
セネカ、怒りについて
 他二篇 (岩波文庫)
 セネカは一応ストア派だったけど、結構贅沢に暮らしたし、金持ちは贅沢すべきだとも考えていた。奴隷もいっぱい抱えていた。
 ストア派ってけっこうストイックなんじゃねえの?「哲学者は己の論ずるところを実践せず」って本当だよなー、と揶揄されても、「いやー、そんなことないよ、こう見えてもちゃんといろいろ考えてるんだよ、ハッハッハ」てなもんで、古代ローマでもやっぱり金持喧嘩せずなのだった。

 じゃあ、後世の哲学者たちの暮らしぶりはどうだっただろう?十九世紀ともなればだいたい大学におさまってたから、赤貧洗うがごとき生活の中で思考を鍛えたりとかはあんまりない。ヴィトゲンシュタインなんか父親の遺産でもって、ヨーロッパでも指折りの金持ちだった
 以下、思いつくまま書いていこう。
 ショーペンハウエルもそうだ。大商人の父の遺産で生活に困ることはなかった。(多少の騒動はあったが
 カントはきちんと貯金して、いつも手元に一袋の金貨を持っていたという。
 キェルケゴールも父親が財産を残したが、それは父親が若い頃「神を呪った代償」として受けたもの、と考えていたとかなんとか。
 スピノザは清貧のイメージがあるけど、やはり裕福な商人だった父親が残した遺産があった。姉が「それをよこせ」と言ってきた時裁判を起こした。スピノザは裁判に勝ち、しかるのち改めて姉に財産を譲ったそうな。めんどくさいおっさんやな。

 なんかこう、大向こうに受けそうな「あしたのジョー」っぽいハングリーなドラマ、というやつがあまり思いあたらない。
 マルクスだってユダヤ教のラビの子ってことで窮屈なこともあったらしいけど、貧しいわけではなかったようだ。晩年は工場経営者のエンゲルスが喰わせてくれてたし。
 それでなのかどうか知らないけど、「お金」そのものについての哲学というのはあまりない。
 そういうのは近代になって、「金」ってやつの存在感が大きくならないと意味がなかったのかもしれない。

ジンメル、貨幣の哲学
 で、ジンメルが『貨幣の哲学』を書いているわけだが……、やはりジンメルも裕福な商人の息子だったりするのだった。
 哲学なんてのは、貧乏人のやるこっちゃないんだなあ……
 るーるるーるーるー(哀愁のメロディ)

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