2014年6月30日月曜日

あの日に帰りたいとかいう人はいろいろと都合良く忘れていることが多いんだと思う





 もし若返ることができるとしたらいつ頃がいいか、ってのは年寄り同士の定番の話題だ。そういうときに「いや、今が一番良いよ」なんてカッコつけたことを言うと、空気の読めないやつ扱いをされる。
「あの日に帰りたい」なんてのは、その日からやり直せるって前提で、しかも今までの記憶をそのまま持った上でという条件でなければやってらんない。思春期のぐだぐだなんざ、どんなに思い出補正をかけても恥ずかしいことばかりだ。

 と・こ・ろ・が、「歴史」というやつは、その補正がばりばりにかかる。ねえ知ってる?ナポレオンがアルプス越えをしたとき、本当はぼろぼろのなりで、ロバに乗っていたんだよ。
 とにかく自国の歴史については、常にカッコ良く、常にドラマチックに、思い出すのも恥ずかしいことなんか、ぜーんぶなかったことになっちゃうのだ。それは、その時代を生きていた人がいてすらも起こりうる。
 戦時中の日本とて例外ではない。というか、富みに顕著だ。

 


 上記、早川タダノリ氏の著作の破壊力は凄まじい。古本屋を商売にしていると、ちょくちょくこういうものは目に入るのだが、ここまでひどいとはねえ。燃やしたはずの中学生の時に書き溜めたSFアドヴェンチャー小説が、時を超えてよみがえってきたような、そんな気分にさせられる。マッカーサーが「日本人は十二歳」とか言ったわけだ。(別な意味で言ったのは知ってるが)
 ちょっと上掲の『「愛国」の技法』から、気になる部分を少し抜き出してみよう。

日劇ショー「ハイル・ヒトラー」を見にいこう

 昭和十三年のヒトラー・ユーゲント来日に合わせて、日劇ダンシングチームは『ハイル・ヒトラー』と題した十五幕レビューを上演した、とのこと。
 本に掲載された写真は、レビューガールたちがナチの制服を着て整列し、みんなでナチの旗を振っている。

ミッドウェーの大戦果を神様に報告しよう

  昭和十九年再版の『大東亜戦争祝詞集』という本に、「珊瑚海戦・ミツドウエー・アリューシャン列島攻撃報告祭祝詞」というのが掲載されている。これが大本営発表そのままに、ミッドウェーで大勝利という内容。ミッドウェーの件は海軍が身内の陸軍にすらひた隠しにしていたので、下々の人間が知る由もなかった。ちなみに陸軍はアメリカの情報を得ることでミッドウェーの真相を知った。

裸授業で体を鍛えよう

 昭和十七年、新潟県の市之瀬国民学校では、「質実剛健」の精神を養うため、子供達に裸で授業を受けさせたとか。信じられないような話だが、本には写真も掲載されている。
 しかもそれはこの学校ばかりではなく、『皇民錬成の哲理』(昭和十五年、第一出版会)という本に載っている例では、静岡県大久保小学校において女教師以外全員裸になって乾布摩擦をし、ふんどし一丁の訓導や校長の体を、係の「女の子」にごしごしこすらせたとのこと。えー、もちろん訓導も校長も男で、係の女の子は裸なわけで、「皇民錬成」ともなればこんなことも許されたとか、めまいと吐き気と動悸がいっぺんに襲ってきそうな話だ。

 左の画像は昔在庫していた『文藝』の裏表紙だが、ほんと、こんな時代の「日本を取り戻す」とか、やめてほしいもんだ。
 何より恥ずかしいから。

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