2014年6月1日日曜日

クルーグマン先生によると女王様は裸で自転車に乗っているようです

ポール・クルーグマン「なんで経済学者は人口成長を気にかけるの?」
http://econ101.jp/ポール・クルーグマン「なんで経済学者は人口成/

 えーっと、上のリンクでノーベル賞のクルーグマンさんがなんか言ってるので、ちょっと引用。

>ここで認識しておくべき大事なことがある.「人口増加が鈍るのは,いいことになりうるし,そうなるべきだ――ただし,健全な政策としてまかり通ってるものは,この潜在的にはいい発展を大きな問題に変えてしまう見込みがあまりにも大きい」ってのが,それだ.なんでかって? 現状のゲームの規則では,ぼくらの経済には,「自転車」っぽい側面が色濃くあるからだ:十分にスピードを出して走ってないと,こけてしまいがちなんだよ.

 だそうだ。
 以前からこのブログでは「女王様は裸だ」というシリーズで、「人口が減少してくると経済学は役に立たなくなる」てなことを書いてきた。なので、これはそんなに目新しいことでもなくて、あーやっぱりそうだよね、と再確認しただけだ。あ、ちなみに「女王様」ってのは、経済学が「社会科学の女王」を自称してるんで、「王様は裸だ」にひっかけて言ってるだけ。別に鞭でビシバシしたりしないのでご安心を。
 だいたい経済学ってものが成立したのが十八世紀後半、フランス革命が起きるちょい前なんだけど、その辺りからヨーロッパの人口がぐんぐん増えてくる。で、どんどこどんと肥大する社会をどうするか、てのが重大な問題になってきて、経済学ってのはそれを解決するための学問として登場したのだ。いや、これは経済学者が自分でそういってたんじゃなくて、今になって振り返るとそういうことだとわかる、てこと。
 だから、経済学ってのはバックギアのない自動車みたいに、「人口が減少する」局面についてはほとんど考えていない。ゼロじゃないけどね。ケインズも一般理論 でちょこっと触れ出るみたいだし。でも刺身のツマの造花の菊程度の扱いだけど。
 そしてその「人口」について、フランスで革命が起きてる最中に、マルサスの『人口論』てやつが出版されている。
 なので、何を今更な感じもしないではないんだけど、いい機会なので、ここでマルサスの『人口論』についてざらっとおさらいしとこうと思う。

人口論 (光文社古典新訳文庫)

「破廉恥漢マルサス!その著書の名も知る要なし」(フローベール『紋切型辞典』)

 まず、『人口論』てのはいきなり彗星のように現れたのではなくて、W.ゴドウィンて人が書いた『政治的正義 』への反論として書かれている。『政治的正義』はフランス革命の影響を受けて書かれたもので、人類の進歩やら平等やら解放やらをこれでもかと啓蒙的に謳いあげた書物だ。
 マルサスはそれに対して、「人口増加の問題があるから、そうは問屋が卸しちゃくれないよ」とツッコミを入れた。
 それが有名な、

「人口はかけ算で増えるけど、生産は足し算でしか増えないよ。だから自然のなりゆきとして、人間には不幸と悪徳がつきまとうのさ」

 という台詞。あ、ごめん、読みやすく書き換えちゃった。でもまあ、だいたいこういうこと。そんな大した内容でもないんだけど、このツッコミをはね返すのは至難の業だった。
 マルサスは救貧法に反対して、不幸や悪徳は健全な生産を増大させるのに必要なものだ、という論陣を張ったりもした。
 そうして『人口論』は版を重ねたんだが、重ねるごとにページ数が増え、六版を数える頃には初版の五倍の分量になっていた。
 分量が増えるに連れて、マルサスは自分が主張してきたことに疲れてしまい、富の需要は生産物への有効な需要を引き出すために、多くの関係する者たちに配分されなきゃなんない、みたいなことを言い出してしまう。ケインズの「有効需要」のはしりみたいなもんだね。なので、新自由主義の人なんかは、「『人口論』は初版が一番いい」てなことをおっしゃる。

 まあつまり、人口が増大する局面においては、「貧乏人は生かさぬよう殺さぬようしぼりあげるべき」なんて理屈が、それなりの真理として通用したりしてしまったすることもある、ということ。だけど、じゃあ、人口が減少してきたらそれはどうなるのかね?
 もし人口の減少が割り算で減って、生産が引き算で減るとしたら、どうなるだろう。それとも減るときは逆に、人口が引き算で減って、生産が割り算で減るのかな?とにかく、戦争や疫病や自然災害を伴わない「減少」てのは、世界史でも類を見ないので、この先どうなるのか、どうしたらいいのか、さっぱりわからないというのが現状なのだ。

 それなのに、ああそれなのに、エラい人がやってることは「人口が増大するという仮定で」のものでしかないんだよね。それ以外の考え方を知らないんだから、しょーがないっちゃ、しょーがないんだけど。
 それは経済以外にも現れてて、今になって「集団的自衛権」とか、あほかいな。一銭五厘でいくらでも兵隊を集められた時代じゃねえんだぞ。むしろ、若者を無駄に死なせない方向で考えるべきなんじゃないのかねえ。
 

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