2014年3月14日金曜日

ほんとうのタヌキはタヌキ寝入りしないでほんとうに眠る

たぬき

    またも佐藤垢石を引用してしまおう。『望妖記』の中の「夫婦狸」から。

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 だが、狸は総じて無邪気にして洒脱味を帯びている。数多い狸のうちには、甚だのんきにできて、物ごとに余りこだわらぬ奴もいるのである。
 一夜中、たらふくにんじんや藷の御馳走にあずかると、つい睡気を催し、畠の畦などにころりと寝ころんでそのままぐうぐう眠ってしまい、朝がきて東の山の端を、太陽が離れるまで気がつかず、 ぐっすりとよい気持ちで横になっているのがある。これを、狸寝入りというのであろう。
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 狸寝入りという言葉があるが、これは眠りを装うことの意味であろうと思う。であるのに馬山村の狸は狸寝入りではなくて、ほんとうにのんびりと、本眠りに眠ってしまうらしい。
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 なんというか、野生動物にあるまじきゆるさである。ダーウィンが知ったら「適者生存」とかを考え直すんじゃなかろうか。
 一昨年にもこんなニュースがあった。

「タヌキ寝入りではなかった」タヌキが民家内で熟睡 足利
http://goo.gl/ineQdi
>23日午前、足利市樺崎町、板橋一雄さん(62)方にタヌキ3匹が入り込んだ。うち1匹(体長約50センチ)が居間の食器戸棚と壁の隙間に入って身動きで きなくなった。足利署員3人が熊手と網を使って捕獲し、近くの山林に放した。 同日午前11時10分ごろ、玄関近くの寝室で寝ていた板橋さんが目を覚ますと、布団の上でタヌキが1匹寝ているのを発見。板橋さんは「タヌキ寝入りでな く、本当に眠っていた」と驚く。タヌキは一斉に逃げ出したが1匹が隙間にはまったため、足利署に通報した。
板橋さんは自宅で猫5匹を飼っており、「餌の残飯を食べに来た同じタヌキではないか。無事、山に帰れてよかった」と話していた。

 こんなタヌキがレッドデータどころか天然記念物にもならずにすんでいるのは、ひとえに「食っても不味い」からだろう。
 あの動物ならなんでも食べるムツゴロウ畑正憲ですら、「臭くて不味い」と書いている。
『山賊ダイアリー』という漫画でも、「食べると脂が口の中で泡になる」といって、とてもじゃないが食べられない、とされている。
山賊ダイアリー(2) (イブニングKC)

    その一方でタヌキは美味い、という人もいる。冒頭の佐藤垢石もその一人だが、この場合おおよそはアナグマと間違えているのだそうだ。アナグマが美味であることはヨーロッパでも知られており、 あのダックスフントはアナグマ猟のために改良された犬で、ダックスdachsはアナグマの意であるという。
 アナグマとタヌキは戦前まで混同されることが多く、ムジナといえばタヌキのことだったり、タヌキといえばアナグマだったり、アナグマはマメダ(豆狸)だったり、タヌキの雌がアナグマだったり、アナグマの雄がタヌキだったり、地方によってまちまちなので混乱してしまうのだ。
アナグマ
    アナグマはよくタヌキの巣穴を乗っ取ったりするので、よけいに勘違いされたらしい。江戸時代の学者には「狸に牝無し、狢に牡無し」として、双方同一種のつがいであると解説した人もいたそうな。

     さて、ここでタヌキ汁のレシピを書いてみよう。
 といってもタヌキの肉は使わない。昔からある精進料理で、お坊さんなんかが食べてたやつだ。
 まずコンニャクを用意する。アクを抜いたあと、すりこぎで倍くらいの面積になるまで丁寧につぶす。
 昆布で出汁をとった後、ささがきにしたゴボウとニンジンをたくさん、シイタケを適宜いれ、赤味噌で煮込む。
 そこへつぶしたコンニャクを一口大にちぎって入れ、さらに煮込む。
 醤油で味を整えて出来上がり。
 コクがたらないと思ったら、砂糖を少々加えると良い。
 これ、ちゃんと田舎コンニャクを使わないと美味しくならないのでご注意を。

 この料理、おそらくつぶしたコンニャクを洒落で「タヌキの肉」と呼んだのがはじまりなのだろう。
 つまりタヌキ汁とは、それくらいありえない料理であった、というわけだ。


完本 たぬき汁 (つり人ノベルズ)

参照リンク:♪わたしターヌーキいつまでもターヌーキ(あみん『待つわ』の節で)

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