2013年10月20日日曜日

なぜおばあさんというものは怖い話をごく普通のことのようにして話すのか

 いやな雨が降っている。
 確かこんな雨の日に、祖母と二人でテレビを見ていると、何かの拍子に思い出したのか、祖母がこんなことを話してくれた。

 昔々、祖母がまだ子供だった頃、近所にお大尽の大きな屋敷があった。
 そこには美しい一人娘がいたのだが、ある日、帯で首をくくって死んでしまった。原因は、好いた男との結婚に反対されたため、と噂された。屋敷の当主の哀しみようは尋常ではなかった。

 娘の葬儀が終わって数日が過ぎ、当主がふと娘のタンスを開けると、帯がきちんとたたんでしまわれていた。
 それは、娘が首をくくった帯であった。
 当主はそれを見て激昂し、「なんでこないなもんがここにあるんや!」と、帯をつかんで窓から投げ捨てた。
 そんなことがあってから一年が過ぎ、今度はその当主が首をくくった。
 使われたのは、当主が窓から捨てたはずの帯であった。
 ここで終っても区切りがいいのだが、祖母の話にはまだ付け足しがあった。
 首をくくった当主が発見されたとき、実はまだ当主には息があったという。ところが当時、自殺はけっこうなスキャンダルであり、それが立て続けに出たとあっては家の名に関わる、さあどうしたものか、と逡巡するうちに息をひきとったそうだ。

 おそらくそのときいっしょに見ていた番組が話のきっかけだったと思うが、その番組が何だったのかさっぱり思い出せない。しかし、この話の方はそのときの祖母の口調まではっきりと思い出せる。なんということのない、昔ちょっと近所であったことを「ああそうそう」と語る、そんな感じだった。その話で孫(私)を怖がらせてやろうとか、そんなたくらみは微塵もなく、淡々としたものだった。
 他にも思い出しては話してくれたことがあるが、それはまた別の機会に。


「怪談」

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